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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1550号 判決

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

大音師建三

櫛田寛一

斎藤英樹

田中康之

田端聡

三木俊博

山崎敏彦

吉田実

同(復代理人)

中嶋弘

被控訴人

国際証券株式会社

右代表者代表取締役

松谷嘉隆

右訴訟代理人弁護士

松下照雄

川戸淳一郎

竹越健二

白石康広

主文

一  原判決を取り消す。

二1  被控訴人は、控訴人に対し、金一四九〇万円及びこれに対する平成五年八月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決の二項1は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一八六一万円九〇〇〇円及びこれに対する平成三年七月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被控訴人の従業員の勧誘により被控訴人との間でのワラント(新株引受権証券)の売買取引を行った控訴人が、この取引により損失を被ったとし、被控訴人に対し、右取引が公序良俗に反し無効であり、また、右勧誘等に各種の違法性があると主張して、不当利得返還請求権又は不法行為ないし債務不履行による損害賠償請求権に基づき金員の支払を求める事案である。

一  争いのない事実

1  被控訴人は、有価証券の売買等の媒介、取次ぎ及び代理等を目的とする株式会社である。

2  控訴人は、被控訴人の従業員で天王寺支店勤務の斉藤康正(以下「斉藤」という。)の勧誘により、被控訴人との間で、昭和六四年一月五日から平成二年五月一四日までの間、別紙ワラント出入一覧表(以下「別表」という。)記載のとおりのワラントの売買取引(以下「本件取引」という。)を行った。

二  本件取引の経過についての当事者の主張

(控訴人)

1 控訴人は、昭和五二年三月に桃山学院大学社会学部を卒業した後、母甲野キタ子(以下「キタ子」という。)の経営する鍼灸院で仕事を手伝い、昭和五七年から三年間鍼灸専門学校に通学し、鍼灸師等の資格を取得した者であり、昭和六〇年ころまで証券取引の経験も関心もなかった。

2 キタ子は、従前、鍼灸院の経営による収入等を元に証券取引をしていたが、それは、上場株式の現物取引と、ワリコー、中国ファンド、投資信託といった安全、確実な証券に絞って行っていたものである。

3 昭和六一年五月、キタ子が脳梗塞の発作を起こし、独力で日常生活ができなくなったため、控訴人は、キタ子の行っていた証券取引を代行するようになった。

4 昭和六三年二月初旬頃、控訴人は、被控訴人からキタ子が昭和六一年一月二九日に七〇〇万円で買い付けた投資信託(ニューブルーチップ無分配)の現在価額が七〇九万円であるとの報告を受け、二年も経過しているのに一パーセント強の利息しか付いていないことに不審を抱き、その事情を聞くために被控訴人天王寺支店を訪れたところ、応対した支店長からどの商品も利幅は少ないと説明され、利益率のよい商品としてワラントを紹介された。

5 その後、控訴人は、控訴人宅を訪れた斉藤から、ワラントは新しい商品でヒット商品であり、株より数倍利回りがよく、手数料はいらないとの説明を受けた。

斉藤の右説明は、説明資料もない約四〜五分間の口頭による簡単なものであり、控訴人は、その後の取引においても斉藤からワラントの性質等について説明を受けたことはなかった。また、「ワラント取引のあらまし」の小冊子(甲一)は、約一年後の平成元年三、四月頃に斉藤から交付されたものである。

6 控訴人は、斉藤の右勧誘により、ワラントの性質等について理解しないまま、昭和六三年二月八日、大和団地ワラントをキタ子の代行として被控訴人から購入したのを初めとし、以後、別紙外貨建ワラント取引一覧表記載のとおり、キタ子の代行あるいは自己名義で被控訴人との間でワラントの取引を行った。これらの取引は、全て斉藤の主導によるものであり、控訴人は、斉藤からの事後報告により知ったものである。また、斉藤の勧めに従った本件取引は、取引時の株価が行使価格を下回るマイナスパリティのワラントが多いが、このことは、本件取引が斉藤の主導によるもので、控訴人がそれに盲従していたことを示すものである。

また、控訴人は、各取引に関する売買報告書に「外国債権」「償還日」との表示があり、預り証に「外国公社債」「償還日」の表示があることから、ワラントは公社債や国債のように元本が保証されていて、償還日が来れば元本が返還されるものと誤解していたものである。

(被控訴人)

1 キタ子は、昭和五五年から被控訴人との間で継続して証券取引を行っており、ワラント取引を開始した昭和六三年二月までに少なくとも一五〇〇万円以上の利益を取得している。

2 控訴人は、昭和六一年にキタ子が発病した後、キタ子名義の取引を代行し、昭和六二年一二月から控訴人名義の取引口座も開設して、投資信託を中心に証券取引を行っていたが、昭和六三年二月頃から投資対象を投資効率の高いワラントに移行することを希望するようになったものであり、証券取引に関する知識及び経験が豊富なものである。

3 斉藤は、控訴人に対し、ワラント取引に関し、「ワラント取引のあらまし」(甲一)を交付しながら、取引の性質、仕組み、危険性(株式と同様にハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期間終了後には無価値になること)等を十分説明し、控訴人は、右説明を受けてワラント取引の性質及び内容等を理解した。

なお、控訴人は、平成元年五月、斉藤から同年四月一九日の日本証券業協会理事会決議の当時作成された「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙三)の交付を受け、「ワラント取引に関する説明書の内容を確認し私の判断と責任においてワラント取引を行う」との内容の確認書(乙四)を作成して斉藤に交付している。

三  本件取引の違法性に関する当事者の主張

(控訴人)

1 ワラント取引の特徴とその危険性

(一) ワラントの価格とその変動についての特徴

(1) 権利行使期間中には株価の影響を受けて複雑に、多くは株価より大きく変動する。

(2) 外貨建ワラントの売却を前提とする場合、為替変動の影響をも受ける。

(3) 株価が権利行使価格を下回ると権利行使の意味がなくなり、実質的価値がなくなる。

(4) 権利行使期間のうち最後の一定期間は残存期間が短いため取引されないことがあり、値がつかない。

(5) 権利行使期間満了により価値は確定的にゼロとなる。

(二) 取引態様の特徴

上場株式や円建ワラントが公設の証券取引所で売買される委託取引であるのに対し、外貨建ワラントの場合は、平成二年秋に日本相互証券株式会社への売買集中が義務付けられるまで、証券会社間の業者間市場で売買され、そこでの価格に基づいて証券会社が顧客に直接売付、買付する取引態様(相対取引)をとっていたため、価格形成過程が甚だ不透明・不公正で、価格公表も極めて不徹底であった。

(三) ワラント取引の危険性

(1) 価格に関する危険性

ワラントは、一般に株価より価格変動が激しく、権利行使残存期間が少なくなると価値が下がり、最後まで持っていると価値がゼロになる。

ワラントは、もともと株価上昇を前提としたもので、株価が上昇しないと価値がでないものである。そして、価格は、理論的価値(パリティ)とは別に思惑価格(プレミアム)が加算されており、変動の様相は浮薄的であって合理性がなく、予測が極めて困難なものである。

(2) 複雑難解なことによる危険性

ワラントは、日本では新規の証券であり、なじみが薄く、その仕組みは複雑難解である。一方、価格情報や銘柄情報が証券会社に偏在しており、一般投資家は証券会社に頼らないと取引が困難であり、このことは、証券会社の勧誘に対して適切な批判能力を持てないことを意味するものである。

(3) 取引態様に関する危険性

外貨建ワラントの場合は、本件取引当時、流通市場が未整備で、価格形成過程が不透明・不公正であった。また、証券会社との相対取引であるため、顧客と証券会社とが利益相反の関係に立ち、顧客が売りたいと思っても必ず売却できるとは限らない。

(4) 情報開示の欠陥による危険性の増幅

ワラントの権利行使価格は投資家が当該ワラントを買うか否か判断するための重要な情報であるのに、それは事前に投資家に知らされず、購入後交付される預り証や取引報告書等にも記載されなかった。

また、権利行使期間についても、ワラント購入に際しての重要な要素であるのに、預り証や取引報告書等に「償還日」と記載されている例があり、一般投資家が「償還日」が来れば元本が償還されるものと誤解する内容であった。

2 勧誘行為自体の違法性

(一) ワラント取引はこのように一般投資家にとって危険性の高いものであるから、ワラントの販売を正当化しうるのは、取引システムに熟練し、十分な投資資金を有し、独自の立場で証券会社と対等に取引をなしうる能力を有する者が、自ら望んで取引に参入するケースに限定され、一般投資家への積極的な勧誘による自由な販売は許されないものである。

また、「自己責任の原則」は、顧客が当該取引を自らの責任において行いうる環境が存在することを大前提とするものであるところ、外貨建ワラントはかかる環境整備を全く伴わないまま解禁されたもので、このような商品が積極的な勧誘によって販売された場合、もはや「自己責任の原則」を適用する余地はない。

(二) 外貨建ワラントは、証券会社との相対取引(店頭取引)により顧客に売買されるものであるが、このような市場及び相場のない取引は客観性を欠き、また、証券会社と顧客とが利益相反の関係に立つことから、一般投資家への勧誘による販売は許されないものである。

(三) 公正慣習規則第一号は「登録銘柄以外の店頭売買銘柄については、顧客に対し、投資勧誘は行わないものとする。」(一三条二項)と規定しており、外貨建ワラントはここでいう「登録銘柄以外の店頭売買銘柄」に該当し、勧誘禁止の対象となっている。

また、公正慣習規則第四号は外貨建ワラント等の国内店頭取引につき「顧客との間の店頭取引は、顧客が希望し、かつ、自社がこれに応じうる場合にのみ行うことができる。」(一〇条四項)と規定しており、外貨建ワラントの一般投資家への勧誘による取引を禁止している。

(四) 以上のとおり、証券会社は、外貨建ワラントを一般投資家に勧誘してはならないとの注意義務を負うものであり、まして隔絶した力関係と信頼を背景に、顧客に対して欺罔的な勧誘を行うことは、社会通念上の相当性を逸脱するもので、重大な違法性を帯びることとなる。

3 適合性の原則違反

(一) 適合性の原則は、証券会社に対し、顧客の意向、財産状態及び投資経験等に適合した投資勧誘を行うことを要求する投資家保護のための基本原則であり、適合性の原則違反は重大な違法要素となる。

(二) 外貨建ワラントは、前記のとおり一般投資家にとり危険性の高い証券であり、一般投資家は外貨建ワラント取引につき適合性を有しておらず、外貨建ワラント取引につき適合性が肯定されるためには、当該投資家が、外貨建ワラントの性質等を十分に理解し、的格に情報を入手して複雑な値動きの分析・予測を自らなしうるだけの能力と経験を有しており、全損のおそれを含む激しい値動きに耐えうる資金力とこれを前提とした投機的取引への指向を有していることが必要である。

(三) ところが、本件において、被控訴人や斉藤は、キタ子や控訴人が外貨建ワラント取引の適合性を有するか否かについて何らの配慮や審査をすることなく、取引を勧誘して取引を開始させ、その後の取引も斉藤の思いのままの取引支配(控訴人に対する事後報告)により行ったのである。

(四) その結果、控訴人は、自己の知識や経験、投資意向に反した外貨建ワラントをそれと知らないまま購入させられ、本件取引の後、手残りの三証券について、自らは全損の危険を意識することも、価格情報を知ることも売却時期を判断することもできず、全損の被害を被ったのであり、被控訴人の適合性の原則違反の違法性は極めて高いものである。

4 説明、確認義務違反

(一) 証券会社は、顧客との取引を行うにあたり、当該商品の内容を十分に説明し、顧客がこれを理解したことを確認する義務を負うものであり、このことが、自己責任の原則の前提条件となる。

外貨建ワラントは、前記のとおり顧客にとって危険性の高い商品であることから、証券会社は、顧客に取引を勧誘するに際し、その性質等や取引の仕組みについて十分に説明し、顧客の理解と納得を得ることが必要である。

(二) 外貨建ワラントにおける説明、確認義務の内容は次のとおりである。

(1) ワラントは、一定期間内に、一定価格で、一定株数の新株を購入することのできる権利を有する証券であること。

(2) 当該外貨建ワラントの権利行使価格と権利行使による取得株式数及び権利行使期間

(3) 外貨建ワラントは、価格変動が激しく、紙屑になることすらありうるリスクの高い証券であること。

(4) 外貨建ワラントが非上場商品であり、外国証券であること等価格に関する情報についての説明、確認

(5) 外貨建ワラントは、購入、売却ともに証券会社との相対取引となること。

(三) 本件において、斉藤は、控訴人を勧誘するに際し、ワラントは利回りがよく手数料のいらないヒット商品であるといった説明をしたのみで、ワラント一般についても、個別ワラントの権利内容についても、前項(1)ないし(5)の説明を何らしなかった。

また、控訴人は、斉藤の右説明内容や被控訴人から交付される預り証や売買報告書の「外国債権」「外国公社債」「償還日」との記載等から、ワラントは割引債や国債と同様、償還日がくれば元本が戻ってくるものと誤解していた。

これらの被控訴人ないし斉藤の勧誘、説明は、単なる説明義務違反に止まらず、証券取引法五〇条一項五号が禁じる虚偽表示、誤解を生ぜしめる表示にも該当する。

5 ワラントのつけ回し(顧客間の付け替え)取引による違法性

(一) 被控訴人ないし斉藤は、控訴人とのワラント取引の中で、同一のワラントを控訴人と他の顧客との間で付け替える取引を頻繁に行っている。これは例えば、被控訴人が控訴人からワラントの買付注文を取りつけ、同時に他の顧客から同一のワラントの売付注文を取りつけ、控訴人(売主)―被控訴人(買主)の取引と、被控訴人(売主)―他の顧客(買主)の取引(これは単価を0.75〜1.00ポイント上乗せしたもの)を成立させるもので、被控訴人はこのつけ回し取引により上乗せしたポイント分の差益を取得する仕組みである。

(二) 証券会社は、合理的根拠を有する推奨、当該顧客にとって最善と考えられる勧誘を行わなければならず、相対取引であることを奇貨として、自らの利益のために複数の顧客に相矛盾した勧誘を行い、顧客を自在に操縦して最後には大損を被らせるなどという背任的行為は許されない。

(三) 本件におけるつけ回しは、平成三年法律第九六号による改正前の証券取引法(以下「旧証取法」という。)五八条一号(現行法では一五七条一号)の禁ずる「有価証券の売買について不正の手段、計画又は技巧をすること」にすら該当しうるものであり、強度の違法性がある。

6 過当売買(チャーニング)

(一) 証券会社が顧客に過当売買を行わせることは、顧客の利益に優先して自己の利益を追及してはならないとの忠実義務に違反し、旧証取法五八条一号に該当する違法な行為となる。

(二) 過当売買の違法性の判断基準としては、①投資の性格や顧客の能力に照らし過当な取引であること、②証券会社が顧客口座の取引に対し、現実ないし実際の支配を有していること、③証券会社の詐欺的意思あるいは故意、過失が挙げられている。

(三) 本件取引においては、資金回転率(年間総購入高を毎月末の平均投資額で除した比率)は年5.15回に達しており、また、本件一連の取引が終始短期の頻繁な乗換により行われており、また、つけ回しが頻繁に行われていたのである。

さらに、被控訴人が本件取引を通じて得た利益は、本件一連の取引により控訴人の投資金(毎月末の投資残高の平均)の五〇パーセントにも達しており、そのうえつけ回しにより更に多額の利益を取得したのである。

そして、これらのことから本件一連の取引は、斉藤による取引口座の支配によるものであることは明らかであり、また、斉藤ないし被控訴人の詐欺的意思も容易に看取しうるところである。

7 以上のとおり、本件取引は被控訴人ないし斉藤の違法な勧誘等によるもので、公序良俗に反し無効であるばかりか、違法な勧誘等は民法七〇九条の不法行為ないし同法四一五条の債務不履行に該当するもので、控訴人は被控訴人に対し、不当利得返還請求権、同法七一五条による損害賠償請求権、債務不履行による損害賠償請求権を選択的に主張し、控訴人が本件取引によって被った損害金一八六一万九〇〇〇円及びこれに対する原審における控訴人の平成三年七月三日付準備書面が被控訴人に送達された日の翌日である平成三年七月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被控訴人)

1 新株引受権付社債から分離されたワラントは、いわゆるプレミアム部分に相当する新株引受権を売買の対象としており、この新株引受権の権利行使期間は概ね五年の償還日の一ないし二週間前に満了する。権利行使期間が満了するとワラントは当然無価値となるが、これは、発行時に決定された条件として性質上予想されるところであり、ワラントの保有者の予想し得ない時点及び内容として無価値の事態が発生したというわけではない。

2 ワラントの価格は株価と連動してハイリスク・ハイリターンに推移するが、株価がいくら下落してもその損失はワラントの購入資金以上にはならないものであり、最大の損失を投資額だけに限定しうることになる。これは、株主が保有株式の引受価額を限度として有限責任を負担する原則と同一であり、株式会社ないし株式投資の本質的原則に属するもので、商品価値を一方的に消滅させて紙屑にさせる場合とは本質的に異なるものである。

3 ワラント取引は、平成二年七月一八日の日本証券業協会理事会決議「外国新株引受権証券の売買、気配の発表について」に基づいて、同年九月二五日から日本相互証券株式会社に集中されることになったが、右理事会決議前においても、外貨建ワラントの取引は、日本証券業協会公正慣習規則第四号外国証券の取引に関する規則及び業界内部の取決めに基づき、仕切り価格の値幅制限等を含めて同様な取引方法等が定められており、取引の基本的公正が確保されていた。

4 本件取引に関して適合性の原則違反は存在しない。

(一) キタ子は株式投資の経験が深く、昭和五六年から昭和五八年にかけて名糖産業、大和ハウス及び住友重機の各株式の大量買付を行って約七〇〇万円近くの利食い益を取得しており、キタ子や控訴人は投機性の高い取引を避けて、投資信託の取引に終始したとは考えられない。

控訴人らは、単に投資信託より積極的に株式取引その他によるキャピタル・ゲイン(売買益)の獲得に執心していたのである。

(二) 投資資金の量及び性格から見ても、控訴人及びキタ子は昭和五六年当時から常時数千万円の余裕資金を株式取引及び投資信託取引に充てており、また、証券会社三社と証券取引を行って割引債、中国ファンド等を保有するほか、共同して鍼灸院を経営していたことから、資金量及びその性格から判断して、控訴人らが本件ワラント取引に関して適合性を有したことは明らかである。

5 ワラント取引の勧誘に際しての説明義務は、ワラント取引のあらゆる部分に関して完全かつ細部にわたる認識まで求めるものでなく、ワラント取引の際当然承知すべきワラントの有する高い投機性(ハイリスク・ハイリターン)の特質に関して言及したうえ、これに関する注意を促す程度で十分である。

四  過失相殺についての控訴人の主張

1  証券取引は、開示された情報を基礎に投資家がその責任において行うという投資家の自己責任の原則に立っているとされているが、自己責任の原則が妥当するためには、①当該投資家は、適切な情報が与えられさえすれば自ら投資判断をなしうる者であること、②投資家に対し、正しい内容を持ち、かつ、十分な質と量を備えた情報が与えられ、投資家がそのような情報に基づいて投資判断を行うことの二つが前提となる。

2  右前提のいずれかが欠けているか、または不十分な場合には、自己責任を個人投資家が全うできる状況的保障が実現されていないのであるから、このような場合に過失相殺をすることは不当である。

3  本件の場合、自己責任を果たすべき状況的保障が皆無であったのであるから、過失相殺により控訴人の損害額を減額すべきでない。

五  争点

1  本件取引の違法性

2  損害額

第三  当裁判所の判断

一  本件取引の経過について

1  証拠(甲一、二の1ないし35、三の1ないし13、四の1ないし19、五、六、七の1ないし6、八の1ないし5、九、二三の1、2、七五、八〇、八二、九一、九三、乙一、二、八ないし一〇、一六ないし四六、証人斉藤康正、控訴人本人〈いずれも原審及び当審〉)を総合すれば、本件取引の経過は次のとおりと認められる。

(一) 控訴人(昭和二九年生)は、桃山学院大学を卒業後、母キタ子の経営する鍼灸院の仕事を手伝い、昭和六〇年に鍼灸等の資格を取得してキタ子と共同で仕事をしていたが、昭和六一年五月、キタ子が脳梗塞で倒れた後はキタ子の看病にかかりきりで鍼灸院の仕事を休み、預貯金等で生活していた。

(二) キタ子は、昭和五五年五月から被控訴人(天王寺支店)と証券取引を始め、昭和五八年八月までは上場株式の現物売買を、同年一〇月からは投資信託取引を行っていたが証券の信用取引には手を出さず、昭和六一年五月に脳梗塞で倒れるころまでにこれらの取引で一〇〇〇万円の利益を上げていた。また、被控訴人以外の証券会社三社とも取引があり、中期国債ファンドやワリコーを保有していた。

控訴人は、キタ子が倒れるまでは証券取引の経験がなかったが、昭和六一年五月にキタ子が倒れてからは、キタ子に頼まれてその財産を管理するようになり、キタ子名義の取引を代行する一方、昭和六二年一二月からは、被控訴人との間で自らの取引口座を開設し、投資信託を購入していた。

(三) 控訴人は、昭和六三年二月、投資信託の利回りが低いことから被控訴人天王寺支店に説明を求めに行ったところ、投資信託の利回りはブラックマンディーの影響で下がったとの説明を受け、利回りのいい商品としてワラントを紹介された。

その後、斉藤が控訴人宅を訪問し、控訴人に対し、「ワラント債は株より数倍利回りのいい新商品でヒット商品であり、手数料も要らないものである。」と説明してワラント取引を勧誘した。このときの話しは、控訴人にワラントの説明書類を示すこともなく四〜五分間の短いもので、ワラントの意義や特徴等の説明はなかった。

(四) 控訴人は、斉藤の勧誘に対しいい商品を紹介してくれているとの認識を持ち、同月八日ころ、斉藤の勧めによりキタ子名義の取引口座で大和団地ワラントを購入した。以後、控訴人は、別紙外貨建ワラント取引一覧表記載のとおり、キタ子ないし控訴人名義で被控訴人との間でワラント取引を行った(この内、控訴人名義で行った取引が本件取引である。)が、銘柄の選定、売り買いの時期等は全て斉藤の主導によるもので、控訴人が斉藤に指示することはなかった。

また、控訴人は、その後の取引の期間中も斉藤からワラント取引の特徴等について説明を受けることがなかった。

(五) 控訴人は、斉藤がいつもワラントのことを「ワラント債」と言っていたことや被控訴人から送付されてくる取引報告書に「外国債権」とか「償還日」との表示があったことから、ワラントのことを、償還日がくれば元本が戻ってくる債券であると誤解してワラント取引を始め、平成元年三、四月頃、斉藤から被控訴人発行の「ワラント取引のあらまし」と題する六頁の小冊子(甲一)を「読んでおいてください」と言って渡され、また、取引報告書等と一緒に被控訴人発行の「『ワラント取引』のご案内」と題するチラシ(甲九)が送付されてきたこともあり、それらを一読し、また、書店でワラントの解説書を立ち読みしたりしたが、ワラントの意義やワラント取引の特徴等について正確に理解できないままであった。

(六) 控訴人は、平成二年五月、同年四月二五日に五〇ワラント当たり約五四〇万円(13.75五ポイント)で売った日本酸素ワラントを同年五月一四日に約六七一万円(17.50ポイント)で買ったことについて斉藤に苦言をいったところ、斉藤は「もう当分来ない。」と言って、それ以来控訴人宅に行くことを止め、控訴人と被控訴人のワラント取引はなくなった。

(七) 控訴人は、右の時点でトヨタ自動車、藤倉電線及び日本酸素の三銘柄のワラントを保有していたが、前記のとおりワラントのことを誤解していたために、右各ワラントを売却して損害を少なくすることを思い至らずに保有し続けたため、いずれのワラントも権利行使期間の徒過により無価値となった。

(八) 控訴人は、別記記載のとおり、本件取引により最終的に一八六一万九〇〇〇円の損失を被った。

2  被控訴人は、取引の経過につき右認定と異なる主張をし、証人斉藤康正も右主張に沿う供述をしているが、次のとおり、証人斉藤の供述は信用できず、被控訴人の主張は採用できない。

(一) 斉藤は、控訴人にワラント取引を勧誘する際の状況について、原審では、控訴人に対し、「ワラントは新株引受権のことで、期限があり、期限が過ぎたら権利がなくなり価値がゼロになる。ハイリスク・ハイリターンです。」と説明し、「ワラントのあらまし」(甲一)を手渡し、その内容についても説明した旨明確に供述していたが、当審では控訴人にその時に交付したのが「ワラントのあらまし」であったかどうかはっきりしないと供述を変えており(甲九三によれば、「ワラントのあらまし」は平成元年初めころに作成されたもので、右勧誘当時にはなかったものと認められる。)、勧誘時の説明についての斉藤の供述は、控訴人本人の供述に照らし信用できない。

(二) 斉藤は、控訴人はワラントがハイリスク・ハイリターンの商品で価値がゼロになることも理解していた旨供述しているが、前記のとおり、斉藤から控訴人にワラント取引の特徴等について説明をしたとは認められないことや、控訴人が被控訴人とのワラント取引を止めた後、前記三銘柄のワラントを行使期間が過ぎるまで保有し続けていたことから、斉藤の右供述も信用できない。

(三) 被控訴人は、平成元年五月、控訴人に「外国新株引受権証券(ワラント)取引説明書」(乙三)を交付し、控訴人から「ワラント取引に関する確認書」(控訴人分―乙四、キタ子分―乙五)を徴求した旨主張し、斉藤も右主張に沿う供述をしているが、甲二三の1、2によれば、右取引説明書は同年四月一九日付日本証券業協会理事会決議で顧客への外貨建ワラント取引の説明書の交付が義務付けられたことに伴い、同年五月に日本証券業協会が作成したものであることが認められ、乙五の確認書が作成された平成元年五月一〇日に右取引説明書を控訴人に交付することが可能であったと思われないこと、右取引説明書を交付して確認書を徴求するのならば、控訴人分とキタ子分を同時に徴求するのが自然であるのに、乙四の確認書が作成されたのは同月二八日で乙五の作成日と異なること、控訴人本人は右取引説明書の受領を否定する供述をしていることから、控訴人に右取引説明書を交付したとの被控訴人の主張は採用できない(右確認書の中で「受領した」とある説明書は平成元年三、四月頃に斉藤が控訴人に交付した「ワラントのあらまし」(甲一)を指すものと思われる。)。

(四) 前記のとおり、控訴人は平成元年五月二八日、「ワラント取引に関する確認書」(乙四)を作成して被控訴人に交付しており、それには「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し私の判断と責任においてワラント取引を行います。」との文言が記載されているが、右確認書は控訴人がワラント取引を開始する前でなく、被控訴人の方針により確認書を徴求するようになったために本件取引の途中で作成されたものであり、その際に斉藤が控訴人に対し、ワラント取引の特徴等について改めて説明したことを認めるに足りる証拠もないことから、右確認書が作成されたことをもって、控訴人がワラントの意義やワラント取引の特徴等について正確に理解できないままで本件取引を行ったとの前記認定を左右するものでない。

二  ワラントについて

証拠(甲一、九、一六、二一、二二の1、2、二四、二五、三二、六七の1、2、七一の1ないし3、七七、七八、八一、八四、八七、九五、乙三、四九、五〇)によれば、ワラントに関して次の各事実が認められる。

1  ワラントの意義

ワラントとは、昭和五六年の商法改正で創設された新株引受権付社債制度の下で発行される新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分(エクスワラント)から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされている新株引受権ないしこれを表章する証券のことであり、発行会社の株式を、一定の期間(権利行使期間)内に、一定の価格(権利行使価格)で、一定量購入することのできる権利(証券)である。

換言すれば、ワラントの保有者が、行使期間中、ワラント債の券面額を行使価格で除する方法で算出された株数の株式を行使価格で購入することができる権利(を表章する証券)である。

2  ワラントの性質

ワラントは、発行会社の株式を購入することができる権利であり、その権利を行使して株式を取得するための期間と価格が当初から定められているものであることから、次のような性質を有している。

(一) 一定期間が経過すると価値がゼロになる。

ワラント債発行時に権利行使期間が定められており、この期間を過ぎると権利行使ができなくなって価値がなくなる。

(二) 価格変動が一般に株式より大きく、不安定である。

ワラントの権利行使価格は、ワラント債発行条件決定時の株価に約2.5パーセント上乗せをした価額で定められ、原則として変更されない。そして、ワラントは発行会社の株式を行使価格で購入できる権利であるから、ワラント投資の目的の一つは、新株引受権を行使して時価より低い行使価格で取得した株式を時価で売却してその差益を得ることにある。それゆえ、ワラントの価値は、将来、株式が行使価格より値上がりすることを前提としたものである。

ワラントは発行直後には額面(外貨建ワラントの場合、一ワラント五〇〇〇米ドルが一般である。)の二〇パーセント(=二〇ポイント)前後で取引されることが多く、その後の価格の変動は株価に連動するが、変動率は株価より大きいのが一般である。

また、ワラントの価格は、株価の値上がりへの思惑(プレミアム)が理論的価値(パリティー株式の時価と行使価格との差額)に加算され、プレミアムで変動する要素が大きく、そのために不安定になりうる。

このように、ワラントは、同額の資金で株式の現物取引を行う場合に比べて、ハイリスク・ハイリターンな金融商品である。

(三) 外貨建ワラントを売却する場合、売却価格は為替変動の影響を受ける。

3  外貨建ワラントの国内取引の特質

(一) 新株引受権付社債については、昭和五六年九月三〇日付日本証券業協会理事会決議により、分離型の新株引受権付社債及びワラントの取引は自粛されていたが、昭和六〇年に至って右の決議が廃止され、国内ワラントが同年一一月一日に解禁されたのに引き続き、昭和六一年一月一日から外貨建ワラントが解禁された。

(二) 右解禁後、外貨建ワラントは顧客と証券会社との売買により取引(相対取引、店頭売買)されるものであるのに、ワラントの時価等についての公表がない等の問題点が指摘され、平成元年一月一一日から業者間売買市場が創設され、続いて同年四月一九日付日本証券業協会理事会決議「外国新株引受権証券の店頭気配発表及び投資勧誘について」により、市場性の高い代表的銘柄について売買気配値が発表されるようになり、さらに、平成二年七月一八日付同協会理事会決議「外国新株引受権証券の売買、手配の発表等について」により、同年九月二五日から、業者間売買を原則として日本相互証券株式会社に集中させてその値段を公表することとし、併せて仕切り値幅についても一定の制限を設けた。

(三) このように、外貨建ワラントは、上場株式等と異なり、証券会社との相対取引であり、平成元年四月一九日付の日本証券業協会理事会決議で代表的銘柄についての店頭気配値が公表されるようになるまで、顧客にとって、ワラントの時価を知ることが困難であった。

三  証券取引の投資勧誘における証券会社の注意義務について

1  一般に、証券取引は、本来危険を伴うものであって、証券会社から提供される情報等も将来の経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含む将来の見通しの域をでないのが実情であり、投資家自身において、開示された情報を基礎に、自らの責任で、当該取引の危険性と、それに耐えうる財産的基礎を有するかどうかを判断して行うべきものである(自己責任の原則)。そして、このことは、本件のようなワラント取引においても妥当するものである。

しかしながら、証券会社が証券市場を取り巻く政治、経済情勢はもちろん、証券発行会社の業績、財務状況等について高度の専門的知識、豊富な経験、情報等を有する一方で、多数の一般投資家が証券取引の専門家としての証券会社の推奨、助言等を信頼して証券市場に算入している状況の下においては、このような投資家の信頼が十分に保護されなければならないことも当然である。

2  このようなところから、旧証取法五〇条一項一号、五号、五八条二号、昭和四〇年一一月五日大蔵省令第六〇号「証券会社の健全性の準則等に関する省令」一条は、証券会社等による断定的判断の提供、虚偽の表示または重要な事項につき誤解を生じさせるべき表示等を禁止し、「投資者本位の営業姿勢の徹底について」昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号日本証券業協会会長宛通達で、投資家に証券の性格や発行会社の内容等に関する正確な情報を提供すること、勧誘に際し投資家の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われることに十分配慮すること、取引開始基準を作成し、それに合致する投資家に限り取引を行うこととされ、日本証券業協会制定の「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則(公正慣習規則第九号)」で証券投資は投資家自身の判断と責任において行うべきものであることを理解させるものとするとし、取引開始基準の制定や説明書の交付等が定められ、投資家の保護が図られているところである。

もっとも、これらの法令、通達、協会規則等は、公法上の取締法規又は営業準則としての性質を有するものであり、これらの定めに違反した行為が私法上も直ちに違法と評価されるものではないが、これらの法令等は多数の一般投資家が証券会社の推奨、助言等を信頼して証券取引を行っているという状況の下で、投資家の信頼を十分に保護するために制定されたものであるから、証券会社やその使用人は、投資勧誘にあたり、信義則上、投資家の職業、年齢、財産状態及び投資経験、投資目的等に照らして、投資家に対し当該取引に伴う危険性について的確な認識を形成するに足りる情報を提供すべき注意義務を負うことがあるというべきであり、証券会社やその使用人がこれに違反して投資勧誘に及んだときは、具体的状況によっては、右勧誘行為は私法上も違法となるものというべきである。

四  本件取引の違法性等について

1  まず、控訴人は、本件取引は公序良俗に反して無効である旨主張しているが、商法が分離型新株引受権付社債の発行を認め、証券取引法上もワラントの取引が予定されていること、ワラントは少ない投資額でキャピタル・ゲインを獲得することができ、損失も最大限で投資額にとどまるもので、金融商品として十分合理性を有すること、ワラントの特徴等について的確に認識することにより、一般投資家でもワラント取引が十分可能であること等から、一般にワラント取引自体が公序良俗に反するものとは到底認められず、本件取引においても、それが公序良俗に反する無効なものとまで認めるに足りる証拠はない。

よって、控訴人の公序良俗違反による無効を前提とする不当利得返還請求は理由がない。

2  次に、本件取引の勧誘行為の違法性について判断する。

(一) 前記認定のとおり、ワラントは、一定の条件で発行会社の株式を引き受けることができる権利であり、一定期間が経過すると無価値となり、価格変動が一般に株式より大きく、不安定でハイリスク・ハイリターンな金融商品であり、また、外貨建ワラントは証券会社との相対取引で、昭和六三年二月当時には店頭気配値の公表もされていなかったものである。

(二) このような時期に外貨建ワラントを勧誘するにあたっては、被控訴人または斉藤は、このような外貨建ワラントの特徴及び前記認定の控訴人やキタ子の職業、投資経験、投資目的等に鑑み、控訴人が外貨建ワラントの危険性について的確な認識を形成するため、①ワラントの意義、②権利行使価格、権利行使期間(権利行使による取得株式数)の意味、③外貨建ワラントの価格形成のメカニズム及びハイリスクな商品であり、無価値となることもあること、④外貨建ワラントは上場株式等と異なり証券会社との相対取引によることについて十分説明し、控訴人がそれらについて的確に認識できるようにすべきであったというべきである。

(三) しかるに、前記認定のとおり、斉藤は、控訴人を勧誘するにあたり「ワラント債は株より数倍利回りのいいヒット商品で、手数料も要らないものである。」と言ったのみで、それ以上に前記①ないし④の点につき何らの説明をしておらず、その後においても、「『ワラント取引』のご案内」と題するチラシを送付し、平成元年三、四月頃に「ワラント取引のあらまし」と題する小冊子を控訴人に手渡したに止まり、ワラントについて説明することはなく、また、個別の取引も自らの主導で行い、個別ワラントの権利内容についても何らの説明を行わなかったものである。前記認定の控訴人やキタ子の職業や投資経験等から、斉藤が控訴人に外貨建ワラントの取引を勧誘するに際し、前記①ないし④の説明を省略したり簡略にしても差し支えなかったとの事情は認められず、本件取引における斉藤の勧誘は、外貨建ワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違反したもので、証券取引にあたっての証券会社の誠実義務に反した違法なものといわざるを得ず、被控訴人は、右違法な勧誘により本件取引を行い、その結果損害を被った控訴人に対して、民法七一五条によりその損害を賠償する責任を負うものというべきである。

五  損害額について

1  前記認定のとおり、控訴人は、斉藤の勧誘によりまずキタ子名義で外貨建ワラント取引を始め、平成元年一月から控訴人名義の本件取引を別表記載のとおり行い、そのために本件取引により最終的に一八六一万九〇〇〇円の損害を被ったと認められる。

2  (過失相殺)

(一) 前記認定のとおり、控訴人はワラントのことを償還日に元本が戻ってくる債権であると誤解してワラント取引を始め、ワラントの意義やワラント取引の特徴等について正確に理解しないまま本件取引を行ったと認められるが、この原因は、主として、斉藤から外貨建ワラント取引の特徴等について何ら説明を受けなかったことや、被控訴人から送付されてくる取引報告書に「外国債権」「償還日」との記載があったことによるものであるが、一方、控訴人は被控訴人から「『ワラント取引』のご案内」と題するチラシが送付され、また、控訴人名義で本件取引を始めた後の平成元年三、四月頃に「ワラント取引のあらまし」と題する小冊子を斉藤から受領しており、それらのチラシ及び小冊子にはワラントの意義、ワラントの価格とその変動、ワラントが場合によっては投資金額の全額を失うことがあることの説明がされていたのであるから(甲一、九)、控訴人は、これらの説明資料を手掛かりにして、証券投資関係の雑誌や文献を読んだり、証券会社で詳しい説明を受けたりするなどして、自らの多額の資金を投資するワラントの性質等につき正確な理解を得るように努力すべきであったという一面があったことを否定することはできない。

(二) もっとも、このこと故に証券会社のワラント取引勧誘にあたっての注意義務が軽減されるものでないことはいうまでもないが、これは、自らの自由意思で自らの資金を証券投資する一般投資家に内在する自己責任であり、一般投資家がこれを果たさなかった場合には損害の発生について落ち度があったというべきものである。

(三) 前記認定のとおり、控訴人は、斉藤から受け取った「ワラント取引のあらまし」と題する小冊子やチラシを一読し、書店でワラントの解説書を立ち読みしたりしたが、ワラントの意義やワラント取引の特徴等について理解できなかったのに、それ以上にワラントについて調査することなく、斉藤の主導によるワラント取引を継続し、損害を被るに至ったのであるから、控訴人にも落ち度があったというべきである。

(四)  控訴人の右落ち度のほか、斉藤の勧誘行為の違法性の程度その他本件に現われた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として控訴人の本件取引による損害額の二割程度を減ずるのが相当であり、したがって、控訴人の損害額を一四九〇万円とするのが相当である。

3  (附帯請求)

附帯請求の起算日は、不法行為の場合その損害発生日というべきところ、本件取引においては、平成二年五月一四日の取引終了時点で控訴人が保有していた三銘柄のワラントのうち、権利行使期間の最も遅い日本酸素ワラントの権利行使期間である平成五年八月一七日(甲二の34)の経過により損害額が確定したものというべきであるから、同月一八日を附帯請求の起算日と認めるのが相当である。

六  よって、本件請求は、被控訴人に対し、金一四九〇万円及びこれに対する平成五年八月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

第四  結論

よって、これと異なる原判決を取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官北谷健一 裁判官森本翅充)

別紙ワラント出入一覧〈省略〉

別紙外貨建ワラント取引一覧表〈省略〉

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